「高尾山を半分登ったところで、突然奥歯がズキズキし始めた」——そんな経験をされた方はいらっしゃいませんか。山道の途中で歯の痛みに見舞われると、登山を楽しむどころではなくなります。実は、これは珍しいことではありません。多くの登山者が訪れる高尾山では、登山中の「歯の痛み」にまつわるトラブルが起きやすい条件が重なっています。なぜ山で歯が痛くなるのか、そして出発前に歯科でチェックしておくべき理由を、歯科医師の視点から解説します。
高尾山で歯が痛くなる人がいる——気圧変化と歯痛の関係
標高599mでも気圧は変化している
多くの登山者が訪れる高尾山は、標高599mの山です。「低山だから体への影響は少ない」と思われがちですが、気圧の面ではそうとも言い切れません。
標高が上がるほど大気圧は低下します。高尾山の山頂(標高599m)では、地上に比べて約7%ほど気圧が下がると言われています。わずかな変化に聞こえますが、歯の内部に問題を抱えていると、この差が痛みとして表れることがあります。
「気圧性歯痛」とはどのような痛みか
気圧変化によって引き起こされる歯の痛みは、医学的に「気圧性歯痛(barodontalgia:バロドンタルギア)」と呼ばれます。もともとは飛行機の搭乗中やスキューバダイビング時に生じる歯痛として知られてきた現象です。
JAXA有人宇宙技術部門の情報によると、宇宙飛行士は打ち上げ前に歯科検診を受けることが求められています。もしむし歯や不十分な治療の歯があると、減圧環境でひどい歯痛が起こる可能性がとても高くなります。[1]
宇宙ほどの気圧差でなくとも、登山中の数百メートルの標高差でも同様のメカニズムが働くことがあります。
健康な歯には影響しにくい
重要なのは、「健康な歯はほとんど影響を受けない」という点です。JAXAによると、虫歯があっても治療してあれば問題はなく、歯に詰め物があっても大丈夫です。古い治療でその後虫歯が進行して歯に空洞ができていると、周囲の減圧に従って空洞の中の空気が膨張し歯を内側から圧迫するため痛みが生じる場合があります。[1]
つまり、登山中に歯が痛くなるとしたら、それは「すでに問題のある歯」がサインを出している可能性が高いということです。
標高599mでも起きる「航空性歯痛」——虫歯や詰め物の隙間に空気が入ると何が起きるか
空気が膨張して神経を圧迫するメカニズム
歯の内部には「歯髄(しずい)」と呼ばれる神経・血管の束が通っています。虫歯が進行すると、歯の中に微小な空洞や隙間が生じます。また、詰め物や被せ物が劣化している場合も、境界部分に小さな隙間が生まれることがあります。
標高が上がって外の気圧が下がると、歯の内部に閉じ込められた空気やガスが相対的に「膨張」しようとします。この膨張した圧力が歯髄(神経)を内側から押し広げることで、ズキズキとした鋭い痛みが生じます。平地に戻ると圧力差が解消され、痛みが和らぐのはこのためです。
痛みが出やすい歯の状態
気圧変化の影響を受けやすいのは、以下のような状態の歯です。
| 歯の状態 | リスクが高い理由 |
|---|---|
| 未処置の虫歯(特に中程度以上) | 歯に空洞があり、気圧変化で内圧が変動しやすい |
| 詰め物・被せ物が古くなった歯 | 経年劣化で隙間が生じ、空気が入り込みやすい |
| 根管治療(神経の治療)中の歯 | 神経周囲が刺激を受けやすく、圧力変化に敏感 |
| 歯の根元に膿(根尖病変)がある歯 | 炎症によるガス産生が気圧変化で増悪しやすい |
| 歯周病が進行している歯 | 歯周ポケット内の圧力変化が歯の痛みを誘発しやすい |
「普段は何ともない歯」が登山中に痛む理由
問題のある歯が、日常生活では目立った症状を出さないことも少なくありません。厚生労働省の歯科保健担当者研修会資料によると、40歳で未処置歯を有する者の割合は35.1%(平成28年)にのぼります。[2] この数字が示す通り、「自覚症状がないまま虫歯や歯の問題を抱えている」方は決して少なくありません。
平地では痛みを感じないほどの小さな空洞や隙間でも、登山中の気圧変化というきっかけで、はじめて症状が現れることがあります。これが、「山の途中で突然歯が痛くなった」という体験の正体です。
登山前に歯科へ行っておくべき人のチェックリスト
こんな状態の方は出発前の受診を
以下に当てはまる方は、登山・ハイキング前に歯科でチェックを受けておくことが安心につながります。
- しばらく歯科を受診していない方:痛みがなくても、虫歯や詰め物の劣化が進んでいることがあります
- 詰め物・被せ物をした歯がある方:特に治療から数年以上経過している場合は、隙間ができている可能性があります
- 「なんとなく歯が気になる」方:冷たいものがしみる、噛むと違和感があるなどの軽微な症状は、放置していると登山中に増悪することがあります
- 根管治療(神経の治療)を以前に受けた方:治療した歯の根元に炎症が残っていることがあります
- 歯周病の治療中・経過観察中の方:歯周ポケット内の状態が気圧変化で悪化することがあります
定期検診が「山の安心」につながる
日本歯科医師会によると、スポーツ選手のデンタルチェックでは、むし歯・歯周病・親知らず等に起因する炎症等、一般的な歯科疾患への対応が行われます。[3]
登山は体のコンディション管理が重要なスポーツです。同じ考え方で、歯の状態も事前に整えておくことが、山行の安心感を高めます。
当院では、CTスキャンを導入しており、歯の内部構造や根元の状態を詳細に把握することができます。「レントゲンで異常なし」とされていた部位でも、CT撮影で初期病変が確認されるケースがあります。「気になる歯があるけれど、登山前に診てもらえるか」というご相談も、遠慮なくお持ちください。
定期的に歯の状態を確認しておくことが、こうした思わぬトラブルを防ぐ基本です。
[あい歯科クリニック高尾の予防歯科の取り組みと定期検診について](https://takao-dental.com/blog/001/)
山行中に歯が痛んだときの応急対処
万が一、登山中に歯の痛みが出た場合の対処を知っておくと役立ちます。
できること:
- 市販の鎮痛薬(イブプロフェン・アセトアミノフェン系など)を用法・用量を守って服用する。胃が弱い方は食後に
- 患部を冷やすことで、一時的に炎症を鎮める(ただし冷やしすぎは逆効果になることもあります)
- 無理に山頂を目指さず、標高を下げることで気圧差が減り、症状が和らぐ場合があります
避けること:
- 患部を温める、アルコールを飲む(炎症が悪化するリスクがあります)
- 痛みが引いたからといって放置する(気圧が戻ったことで症状が消えても、歯の問題は残っています)
登山後は早めに歯科を受診することをお勧めします。当院では急患診療も受け入れています。高尾駅南口すぐのアクセスですので、下山後すぐにご来院いただくことも可能です。
まとめ
- 登山中の気圧低下は、虫歯・古い詰め物・根元の炎症などを抱えた歯に「航空性歯痛(気圧性歯痛)」を引き起こすことがあります。標高599mの高尾山でも、この現象は起こりえます。
- 健康な歯は気圧変化の影響をほとんど受けませんが、自覚症状のない未処置歯や劣化した詰め物がある場合はリスクが高まります。厚生労働省の調査では、40歳代でも3割以上が未処置歯を持つことが示されています。[2]
- 冷たいものがしみる・噛むと違和感があるなど、軽微なサインがある方は、登山前に歯科受診を検討することが安心につながります。
- 山行中に痛みが出た場合は、市販の鎮痛薬で対処しつつ標高を下げ、下山後は早めに歯科を受診することが大切です。
- 日頃の定期検診が、登山時のトラブル予防の基本です。「痛くなってから通う場所」ではなく、問題が起こる前に歯の状態を整えておくことが、山行を楽しむための一つの備えです。
高尾山への登山・ハイキングを予定している方は、出発前に歯の状態を確認しておくと安心です。あい歯科クリニック高尾はJR・京王高尾駅南口からすぐの場所にあり、平日は夜20時まで、土日も診療しています。「気になる歯があるけど、山行前に診てもらえる?」「以前治療した歯が少し気になっている」といったご相談もお気軽にどうぞ。急患対応も行っています。WEB予約は24時間受け付けています。
📞 042-673-7610(あい歯科クリニック 高尾)
🌐 WEB予約は24時間受付中
はじめて受診される方は、初めての方へ(初診の流れ)もあわせてご覧ください。
参考文献
[1] JAXA 有人宇宙技術部門「虫歯があると宇宙飛行士になれないって本当ですか」jaxa.jp
[2] 厚生労働省「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項に関する調査(歯科保健担当者研修会資料)」mhlw.go.jp
[3] 日本歯科医師会「スポーツデンティストの活動」jda.or.jp

