高尾山の登山を終えてほっと一息ついた帰り道、あるいはイーアス高尾でのお買い物中に、奥歯の奥がズキズキと疼き出した経験はないでしょうか。「親知らずかもしれない、でも抜くのは怖い……」そう感じながら、痛みを我慢している方は少なくありません。この記事では、抜歯が本当に必要なケースと、経過観察で対応できるケースの判断基準を、歯科医師の視点から丁寧に整理します。
「親知らずが痛いけど抜くのが怖い」——まず知ってほしい基本の話
親知らず(第三大臼歯)とはどんな歯か
親知らずは、大臼歯(大人の奥歯)の中で最も後ろに位置する歯であり、第三大臼歯が正式な名称で、智歯(ちし)とも呼ばれています。永久歯は通常15歳前後で生え揃いますが、親知らずが生える時期は概ね10代後半から20代前半です。
親知らずは一般的には上あご左右2本・下あご左右2本の計4本ありますが、もともと親知らずのない人や、4本が揃っていない人など個人差があります。生えてくる場所が不足している、あるいは萌出方向(生える方向)が通常と異なるために、埋伏(埋まった状態)していたり、傾いてきちんと生えてこないことがしばしばみられます。
J-STAGEに掲載された日本小児歯科学会誌の調査では、18歳以降の調査から第三大臼歯を1歯以上有する者は94.8%であり、そのうち60.7%の者に4歯全て存在することがわかりました。また、患者の意識調査から、第三大臼歯を「要らない歯」と認識する者が約60%と多く、抜歯については「すすめられたら」や「定期検診時に情報提供を求める」とする者も多かったという結果が報告されています[1]。「怖いけどどうすればいいかわからない」という方が多数いることは、データからも裏付けられています。
痛みの原因:智歯周囲炎とは何か
親知らずが痛む最も多い原因は「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と呼ばれる歯肉の炎症です。親知らずは歯肉に部分的に被ったままになることにより不潔になりやすく、歯肉の炎症を起こしやすい状態となります。これを智歯周囲炎と呼び、20歳前後の人に発生する頻度の高い疾患です。智歯周囲炎が周囲の軟組織や顎骨(がっこつ:あごの骨)に広がると顔が腫れたり、口が開きにくくなったりすることがあります。
東北大学保健管理センターの資料によると、急性炎症時は安静と局所洗浄・抗菌薬の投与・鎮痛剤による対症療法を行いますが、炎症症状が軽快しても智歯が存在するかぎり再発を繰り返すため、症状の軽快後に親知らずの抜歯を行うことになります。消炎後に抜歯をしないで放置した場合には急性炎症の再燃を繰り返すことが多くなります。[2]
「とりあえず抗生剤で様子を見る」には限界がある
急性症状が強いときは、まず炎症を抑えることが先決です。しかしこの段階を繰り返すだけでは根本的な解決になりません。当院(あい歯科クリニック高尾)では、痛みが出てからではなく「問題が起こる前に通いたくなる医院」を目指しているという院長・小林正明の方針のもと、痛みのない時期に親知らずの状態を把握しておくことを重視しています。CTスキャンを導入しているため、歯の向きや根の形状・神経との位置関係を立体的に確認した上で、抜く・様子見どちらが適切かをご説明することが可能です。
抜歯が必要になりやすいケース:4つの判断軸
判断軸①:生え方(傾き・埋伏の程度)
親知らずの生える方向が悪かったり、炎症をくり返しているような場合は、抜歯することが適当と考えられます。日本歯科医師会(テーマパーク8020)はこのように整理しています[3]。
特に横向きや斜め(近心傾斜)に埋まっている場合は、手前の歯(第二大臼歯)との間にスペースが生まれ、食片や細菌が入り込みやすくなります。斜めに生えている場合は、隣の歯との間に汚れが溜まりやすく、親知らずだけでなく手前の歯(第二大臼歯)まで虫歯になるリスクが高まります。神奈川県歯科医師会もこの点を明確に指摘しています[4]。
判断軸②:繰り返す炎症の有無
一度炎症を起こした智歯は、繰り返し炎症を起こすことが多いので、抜歯した方が良いでしょう。ただし、炎症を起こしている間の抜歯はできないので、腫れ・痛みが治まった後に抜歯します。
炎症が繰り返されると、口の開きづらさや、のどへの感染拡大、隣の歯の骨吸収といったより深刻な状況につながることがあります。「今回は治まったから大丈夫」と放置を続けるよりも、症状が落ち着いた段階で方針を決めることが賢明です。
判断軸③:隣の歯(第二大臼歯)への影響
隣に位置する第二大臼歯は、食べ物をしっかり噛むために欠かせない重要な歯です。歯周病リスクの観点から、親知らずの周りは歯磨きが困難なため歯垢(プラーク)が溜まりやすく、歯茎の炎症を引き起こしやすい場所です。これが慢性化すると歯周病に発展し、最悪の場合、周囲の健康な歯まで失う原因となります。
当院の治療方針である「抜かない・削らない」という考え方は、あくまで保存できる歯に対してのものです。親知らずを温存することで第二大臼歯が失われるリスクが高いと判断される場合には、歯全体を守る観点から抜歯をご提案することもあります。
判断軸④:虫歯・嚢胞の発生
親知らずそのものに虫歯が生じている場合も、抜歯の適応になりやすいケースのひとつです。口の一番奥に位置するため治療器具が届きにくく、治療しても再発しやすいという特性があります。また、骨の中に完全に埋まっている(完全埋伏)親知らずでは、歯の周囲に嚢胞(のうほう:液体を含む袋状の病変)が形成されることがあり、定期的なレントゲン確認が重要です。
以下に、生え方の特徴と一般的な対応方針を整理します。
| 生え方の分類 | 特徴 | 一般的な対応方針 |
|---|---|---|
| 垂直萌出(まっすぐ) | 他の歯と同様に生えている | 清掃状況を見ながら経過観察も選択肢 |
| 傾斜(斜め・水平) | 手前の歯に当たっている | 抜歯を検討することが多い |
| 部分萌出(一部だけ出ている) | 歯肉に覆われた部分が不潔になりやすい | 炎症の繰り返し次第で抜歯 |
| 完全埋伏(骨の中) | 症状は少ないが嚢胞リスクあり | 定期的なレントゲンで経過観察 |
必ずしも抜かなくていいケース:まっすぐ生えていたら経過観察も選択肢
経過観察でよい3つの条件
親知らずは必ず抜くものではありません。J-STAGEに掲載された研究でも、第三大臼歯に対する治療の明確なガイドラインが存在しないため、対症療法であったり、個々の歯科医師の経験に基づく判断で治療介入が行なわれているのが現状です。[1]だからこそ、画像診断と総合的な口腔内評価が不可欠です。
一般的に経過観察が選択肢に入るのは、次の条件が揃っている場合です。
- まっすぐ垂直方向に生えており、上下でしっかり噛み合っている
- 歯ブラシが奥まで届き、日常の清掃が行えている
- 周囲の歯肉に炎症の既往がなく、虫歯もない
また、骨の中に深く埋まっていて、現在・将来ともにトラブルが起きにくいと判断できるケースでは、無理に抜かず定期的に確認する方針を取ることもあります。
「今は大丈夫」でも定期的な確認が必要な理由
J-STAGEに掲載された調査では、抜歯のきっかけは痛みや腫れなどの症状が出てからが多く、抜歯は20〜30代(59%)が最も多かったとされています。論文では30歳以降も第三大臼歯が存在する場合、症状が発症する確率がさらに高まると指摘されています(個人差があります)[1]。
「今は症状がないから大丈夫」という判断は、あくまで現時点での話です。加齢とともに顎の骨密度や免疫状態が変化すると、長年おとなしかった親知らずが急に炎症を起こすことも珍しくありません。経過観察を選んだ場合でも、定期的なレントゲン撮影と口腔内チェックを継続することが、問題の早期発見につながります。
「抜歯が怖い」という気持ちへの向き合い方
抜歯に対する恐怖心は、多くの方が持つ自然な感情です。日本歯科医師会のテーマパーク8020でも、歯科の麻酔について「患者さんの痛みが少しでも小さくなるように、またリラックスして治療が受けられるように様々な麻酔を用いています」と説明しています。[3]
当院では、局所麻酔の注射そのものへの配慮として、表面麻酔を先に塗布してから注射に移るなど、痛みに配慮した手順を大切にしています。また、治療の内容・所要時間・術後の経過(腫れや痛みが出る期間の目安など)について、事前に分かりやすく説明した上で、患者さんのご同意を確認してから治療を進めることを基本方針としています。
抜歯の前に知っておきたい:費用・期間・当院での流れ
一般的な費用の目安(保険診療)
親知らずの抜歯は、埋まっていない通常の抜歯であれば保険適用です。抜歯の難易度によって費用は異なりますが、概ねの目安を示します。
| 抜歯の種類 | 保険適用 | 費用目安(3割負担) |
|---|---|---|
| 通常の抜歯(まっすぐ) | あり | 2,000〜4,000円程度 |
| 埋伏歯(一部埋まっている) | あり | 3,000〜6,000円程度 |
| 水平埋伏歯(横向きに完全埋伏) | あり | 5,000〜10,000円程度 |
※上記はあくまでも目安であり、初診料・レントゲン撮影費用等が別途かかります。症状・検査内容により変動しますので、詳細は診察時にご確認ください。当院の初診費用の目安は、保険適用3割負担の場合で約3,000〜5,000円です。
抜歯前後の大まかな流れ
当院では、親知らずに関するご相談の場合、以下のような流れで対応しています。
- 問診・口腔内診査:痛みの部位・期間・頻度を確認します
- CTスキャン・レントゲン撮影:歯の向き、根の形状、神経との位置関係を正確に把握します
- 説明と方針のご相談:抜く・様子見それぞれの理由をお伝えし、患者さんと方針を決めます
- 抜歯(適応の場合):炎症が落ち着いた段階で実施します
- 術後経過確認:腫れ・出血の状況を確認し、約1週間後に抜糸を行います
抜歯後は数日から1週間程度、腫れや違和感が出ることがあります。スケジュールに余裕のある時期に受診されることをお勧めします。なお、当院は土曜・日曜にも診療を行っており、平日に時間が取りにくい方にも対応しています(日曜は16時まで、祝日は休診)。
まとめ
- 親知らずは必ず抜くものではない。まっすぐ生えており噛み合っている・清掃できている・炎症の既往がない、という条件を満たす場合は経過観察も選択肢のひとつです。
- 抜歯を検討するサインは「繰り返す炎症・斜めや横向きの生え方・隣の歯への影響・虫歯や嚢胞の発生」の4軸で判断します。日本歯科医師会(テーマパーク8020)でも、生える方向が悪かったり炎症を繰り返している場合は抜歯が適当とされています。
- 論文では30歳以降も第三大臼歯が存在する場合、症状が発症する確率がさらに高まると指摘されています(個人差があります)。定期的なレントゲン確認が早期対応につながります。
- CTスキャンで根と神経の位置を把握した上で方針を決めることで、リスクを抑えた抜歯の計画が立てられます。当院ではCTスキャンを導入しています。
- 抜歯の費用は保険適用が基本で、難易度によって変わります。当院では、費用・期間・術後の経過について事前にご説明し、患者さんのご同意を確認した上で進めます。
「親知らずが気になるけどどうすればいいかわからない」という方は、まずレントゲン・CTで状態を確認することから始められます。あい歯科クリニック高尾では、抜く・様子見どちらが適切かを丁寧にご説明した上で、方針をご相談します。高尾駅南口からすぐ(徒歩約1分)でアクセスしやすく、土曜・日曜診療も行っています。WEB予約は24時間受付中です。お電話でのご予約・お問い合わせは 042-673-7610 まで。痛みが出てからではなく、気になる段階でのご相談をお待ちしています。
はじめて受診される方は、初めての方へ(初診の流れ)もあわせてご覧ください。
参考文献
[1] 日本小児歯科学会誌(J-STAGE)「第三大臼歯のエックス線学的形成時期の調査と治療介入時期に関する検討」jstage.jst.go.jp
[2] 東北大学保健管理センター「智歯周囲炎」health.ihe.tohoku.ac.jp
[3] 日本歯科医師会「親知らず(テーマパーク8020)」jda.or.jp
[4] 神奈川県歯科医師会「親知らずは必ず抜かなきゃダメ? 抜歯したほうがよい場合とその理由」dent-kng.or.jp

